宇宙船の発着場は、火星調査から帰還する探査隊を一目見ようと集まった人々でごった返していた。やがて、重力を断ち切るようにして、一隻の機体が静かに降下してくる。着陸の衝撃が収まるとともにハッチが開き、乗組員たちが次々と姿を現した。沸き起こる大歓声の中、トネ博士は人垣をかき分けて歩み出ると、帰還した隊員たちを力強く労った。
 
「みんな、お疲れ」

「ありがとうございます」

 探査隊のリーダーであるシナノ隊長の心は、大きなプロジェクトをやり遂げたという達成感でいっぱいだった。

 数分後。一同は会議室に移動した。

「シナノくん、例のものは持ってきてるかね」

「はい」

 シナノ隊長は頷く。

「アラカワ、あれを」

彼は後ろにいる若い隊員に視線を送る。アラカワと呼ばれた隊員は、持っていた箱からカプセルを取り出した。これには探査隊が所有している小型探査機が採取したサンプルが入っている。
 トネ博士は、両手に手袋をつけてカプセルの蓋を開けようとした。しかし、白い卵型のカプセルの蓋は硬いのか、どんなに力を入れても開けなかった。彼は、顔を真っ赤にしながら手に力を込めたものの、開けることができなかった。

「くそっ」

トネ博士は、肩で息をしながら立ち上がると、隣にある給湯スペースに向かった。そこで彼はお湯を沸かすと、大きめの容器にそれを入れて戻ってきた。

「何をする気なんです?」

怪訝な顔をするシナノ隊長の前で、トネ博士はカプセルの蓋をお湯につけた。

「こうしたら開くかもしれないと思ってね」

彼はそう言うと、熱くなったカプセルの蓋に手をかける。先程と同じように力を入れたものの、それでもダメだった。

「これ、硬いからなあ」

「ダイヤモンドよりも硬いらしいよ」

シナノ隊長は、そうコソコソと話す隊員たちの話を耳にした。
 こぼれないようにしたと聞いてはいたが、こんなに硬いとはな。そう彼が思っていると、一人の研究者が立ち上がった。

「トネ博士、ここは私に任せてください」
 
 そう言ったのはクラツ博士だ。トネ博士と同期である彼は、自分の研究室からプラズマカッターを持ってきた。

「本当に大丈夫か?」

シナノ隊長は、心配そうに彼を見つめた。

「大丈夫です、加減は心得ているので」

クラツ博士は意気揚々とプラズマカッターを構え、ノズルを蓋に押し当ててスイッチを入れた。まばゆい閃光と激しい火花が周囲を照らす。しかし、煌々と光を放つだけで蓋はびくともせず、カプセルには傷一つついてなかった。

「どんだけ頑丈なんだ……」
 
 トネ博士は頭を抱えた。誰もがもうダメかと思ったその時、またが一人立ち上がった。

「ここは私の出番ですな」

そう言ったのは、ベテランのオシキリ博士だった。

「私の自慢の超音波カッターに切れないものはない」
 
 オシキリ博士は会議室の向かいにある自分の研究室から巨大な超音波カッターを持ってきた。

「おい、やめろ」

 シナノ隊長は焦った。
 
「研究所ごと爆発するぞ」

「心配ご無用」

オシキリ博士はノズルを蓋に当て、自信満々にスイッチを入れた。異様な低音とともに、ギギギと蓋の継ぎ目に沿ってノズルを滑らせる。しかし––結果はやはり同じだった。プラズマでも切れない硬い蓋に、超音波ですら歯が立たない。ついに限界を迎えたトネ博士のフラストレーションは、沸点へと達していた。

「もういい!」

 トネ博士は弾かれたように立ち上がると、ドライバーを取り出した。

「やめろ、そんなのじゃ無理だ」

 シナノ隊長はトネ博士を慌てて止めようとした。

「いいや、それでもやる」

怒りに任せてドライバーを差し込み、力任せにこじ開ける。すると、拍子抜けするほどあっさりと、カプセルは何事もなかったかのようにパカリと開いた。待ちに待った、しかもあまりにも拍子抜けする歓喜の瞬間である。

だが、いざ開封されたカプセルの内部を覗き込んだ一同は、思わず言葉を失った。そこに入っていたのは細長い鉄屑だった。

「なんだ、これは」

トネ博士は首を傾げた。

「とりあえず、調べてみよう」

 その後、鉄屑のようなものの分析が行われた。結果はすぐに出た。

「鉄ですね」

分析担当の研究員はなんの感情も込めずに告げた。それは火星にも鉄があるということを示していた。トネ博士たちは大喜びした。

「新たな資源だ」

「これで資源問題も解決されるかもしれない」

「でかしたぞ、シナノくん」

会議室が歓喜の声でこだまする中、別の研究員がバタバタした様子でやってきた。

「すいません、お喜び中のところ申し訳ないのですが……」

一同の視線が一人に注がれる。

「これ、よく見ると、マイナスドライバーでした」

空気が一気に凍りついた。

「調べたところ、我々がよく知ってるメーカーのものでした」

トネ博士たちは顔を見合わせた。

「なんで、ドライバーが?」

「あれだ、未来の地球人が置いて行ったんですよ」

そう早口に言ったのはクラツ博士だった。そうだそうだ、と周りも彼に同調する。微妙な空気が流れる中、部屋の隅にいたアラカワ隊員が手をあげた。

「どうした、アラカワ」

  シナノ隊長は心配そうに顔を覗き込む。アラカワ隊員は、恥ずかしそうな表情をしつつも、口を開いた。

「あれ、俺のです」

シナノは目を見開いた。

「火星表面で作業している時に、工具をバッグごと落としてしまったんです」

 辺りは静まり返っていた。

「でも、見つかってよかったです」

アラカワは笑顔で言った。